ちょっと脱線して尾形の話
尾形は不殺の誓いを立て「清いままでいようとする人間」を、「そんなものはいない・いていいはずがない」と排除しようとする。
尾形は自分が、“殺す道理があれば罪悪感などに苦しむことなく人など殺せる”人間であり(だからこそ母と父を殺しても罪悪感を感じない)、皆も同じであると思うことで「自分は異端ではない・生まれや育ちが違っても根っこは同じである」という、『安堵感に近いもの』を得ているんじゃないかと思う(その「同じであること」で自分も「親に愛されていた人間」である可能性に繋げようとしていたりするのかな)。
愛とはじゃあ何かって話になりそうなんですけど、尾形自身は愛とはそもそも存在するのか・愛とはどんなものかがわからなさそうというか疑問視していそうな気がするんですが。
その存在について懐疑的なのに、それを求めてるっぽい印象。
勇作さんを殺そうと決意したのは、彼の「人を殺して罪悪感を微塵も感じない人間が【この世にいて良いはずがないのです】」が引き金だと思っているのですが。
あのセリフ勇作さんとしては「兄様は罪悪感を感じていないとおっしゃいますが、そんなことはない。見ないように封じ込めているだけ・感じないように閉じ込めているだけで、兄様だって罪悪感を抱えていらっしゃるんですよ…」と言いたかったんだろうけど、尾形からしてみれば、よりにもよって父から自分の存在価値と存在理由を奪う原因となった人物から(勇作さんは何も悪くないんだけど)「あなたのような人間が存在していいはずがない」と言われたと受け取ったわけで。
そしてやっぱり自分はおかしいのか?愛のない妾の子だからおかしいのか?だから自分は愛されないのか?という自己否定からの自己肯定への理論転換の末に、何故か勇作さんがいなくなればいいにすっ飛ぶ。いやそこは生きて帰って、親父に直接本心全てを問い詰めるところなんじゃないかと思うんですが。面と向かって否定されることは怖かったんだろうか…。
本当にこの兄弟は互いに言葉が足りない&皮肉なすれ違いしすぎ。
もうちょっとこう、上手く話せていたらというか本当に必要な言葉を交わせてたらと思わなくもない。(尾形がそれなりに歪なので、ちゃんと受け取ってくれたかはわからないけども。)
個人的には勇作さんの言う通り、尾形は罪悪感を全く感じてないというより深いところに閉じ込めている気がします。少なくとも最初に手をかけた愛する母に関しては、そうなんじゃないのかなあ…。
軍に入って以降の、戦場で奪った命に対しては本当に罪悪感ないと思うんですけども。それは実際の狙撃兵たちの話からも普通にあることのようなので(スナイパー読むと載ってる)。金塊争奪戦においても彼にとってそれが「任務」であるなら、罪悪感は感じないだろうなと。
「理由があったからこそ殺さねばならなかった」→「確固たる理由があり、やらねばならなかったからこそ罪悪感を感じてはならない(罪悪感はやってはならぬことをしたときに持つもの)」という方向からの理由付けで。じゃないと行動の正当化ができない。
だから花沢父のことはたとえ尾形のことを認めようと認めまいと、「母の敵討ち」という意味からすればどっちにしろ最後は殺すつもり(やらねばならないこととして)だったんじゃないかなとも思っていたり。
自分の存在理由と存在価値、そして生まれてきた意味や自分は愛されていたのかを探して探して構築しようとしているのが尾形だと思うので、その根本を否定する人間が存在することは自分自身を否定されることであり、だからこそ「自分が存在するのは正当である」ために排除せねばならない存在だと考えるんじゃないのでは。
記憶力がいいんだか、言われた言葉に拘りと執着を持つのか、尾形はアシリパに対して同じ「いて良いはずがない」という言葉を言ってますね。
投げられた言葉を同じように返すこと。そうすることで相手を否定し、自分の方が正しいと証明したいのかなと。
そのために命を賭けてもかまわない尾形という人間は、自由そうに見えて本当に色々なしがらみに囚われて絡まって抗っても抜け出せずに、もがきながら生きているんだなと思います。
そして理知的に考えているようで、大事なところであらぬ方向に結論が飛んでる気がする。
さらに脱線して杉尾の話
脱線ついでに19巻の尾形と杉元の再会シーン。あそこで無言のまま掴みかからず「尾形ぁ!!」と叫んだ杉元見たとき、杉元はなんだかんだで尾形のこと好きなんだな…と思いました。後のじゅ~よりも、ここが個人的にものすごい杉尾萌えを感じたところ。
あの距離なら黙ってサクッと殺すこともできただろうに、わざわざコラー!って大声出して怒るって、実はあんまり殺す気なかったでしょ…。
このあと、尾形が金塊が欲しいだけで「あって欲しい」気兼ねなく殺せるからという杉元のセリフが、そうでないと気兼ねするんですねの裏返しだし。尾形の脱走知った瞬間目がいきなりキラッキラし始めるし、走り去ってく尾形に「元気になって戻ってこい、ぶっ殺してやるから(ニッコリ)」だしでこの二人の距離感たまらんです。